トカラ遠征2021⑥@マリンチャレンジャー号
船中泊でのトカラ遠征は三日目の朝を迎えた。
この日は日の出前の6時頃から2時間少々が勝負、あとは一直線に鹿児島県薩摩半島の山川港までは知らないと帰りの飛行機に間に合わないのだ。
飛行機が飛ぶのは夕方だが、船が港に着いてからはタックルの片付けや釣った魚の仕分け、およびその発送などやることは結構たくさんあるので時間は余裕を持っての計画だった。
5時ごろ動き出した船は少し走ってポイントに着いた。
船長から準備してくださいとアナウンスが入る。
僕はのんびり起きて支度をしていたら船がポイントに着くのに間に合わずオタオタと慌ててライフジャケットとギンバルを装着して外に出た。
キャスティング組はすでにキャストを初めており、海を見れば強い風と流れる潮でなんだかすごいうねりのようになっている。
まだ薄暗い海の中で水中に潜む大物がキャストされたルアーを狙っている。そんなイメージが容易に湧くような雰囲気の海だった。
僕がジギングの用意をしていると突然ミヨシから大声が発せられた。
出たのだ。
GTだ、デカいデカい!と誰かが叫ぶ。
しかし、次の瞬間、あ、というため息とも驚きともつかない声が一斉に発せられた。
糸を切られたのだ。
水深はわずか20メートル足らずの浅瀬の頂点を船が通過したところだった。
大物はルアーをくわえたままその根の反対側に潜り込み太いPEラインをブチ切ったようだ。
魚をかけたのはFさん。この人のGTへの執念と技術はすごい。
6年前にこの釣りを始めたばかりの僕はFさんと一緒にインドネシアのコモド島までGT釣りに出かけ数日間共に釣りをした。
その時、彼の腕前をたっぷり見せていただいた。
とにかくよく魚をかける、そして釣りあげるヒトなのだ。
そんな手練れのFさんを持ってもこのGTをねからかわすことはできなかった。
船は同じコースを流し返そうとしていた。
Fさんはキャビン後ろのテーブルについて切られたラインを組み直していた。
その口からは悔しさを表すあらゆる言葉が吐き出されて、僕にはとても苦しんでいるように見えた。
釣りというのは釣れば天国、逃げられれば何も残らない残酷な遊びだ。
しかもこの大物釣りの相手は海の中でも海千山千の経験をして生きながらえてきた結果の大物たちだ。そう簡単には釣られないぞ。
海の底でFさんに向かって呟く大物GTの姿を想像した。
このあとも近くのコースを何度か流したがキャスティング組にもジギング組にも魚の反応はなかった。
いかにも出そうな環境なのだが出ない。何かがおかしい。地震があったことを知らない我々は首をひねりながら釣りをしていた。
昨日からの強い風はおさまることなく海に吹き付けていた。
大きなうねりの中で風に釣り糸を吹き飛ばされそうになりながら釣りを続ける。
僕にようやくアタリがあり魚の手応えを感じたのは明るくなってからだった。
ドンという強引なひったくるようなアタリ、これはバラハタだ。
今回の釣行ではこのバラハタはずいぶん釣れているのだが、食べるとシガテラ毒という神経毒を持つ魚なので写真も撮らずに全てリリースしていたため写真がないが、引きはなかなか楽しい魚なのだった。
食べられないバラハタでも釣れれば楽しい。

やがてポイントを少し変えて流し変える。時間がないので大きな移動はなかった。
そのポイントで今度は小さいアタリでまたバラハタらしい魚が僕のジグにヒットしてきた。
急いで糸を巻くと、急激に水深が変わるため魚の空気袋が膨らんで動けなくなってしまうので、リリースしても死んでしまう。そこで僕はゆっくりと糸を巻いて魚を生かそうとした。
ところが20メートルくらい巻き上げたところで違和感を感じる。
一瞬だが魚が重くなった感じがし、その後急に軽くなった。サメだ!とすぐに思った。
糸を巻いてきたら二本ある針の一本がアシストラインから針が切られていたが運良くジグは残っていた。
アシストラインが切れなかったらサメ釣りになっていた、と思うとホッとした。
そんなことをしているうちに2時間はすぐに立ってしまい釣りは終了となる。
GT組はFさんの一匹だけでその後はバイトすらなかったようだ。
風裏の場所に船を止めて朝食のお茶漬けをみんなで食べた。
吹き付ける海風にあたりながらお茶漬けを食べるというなんだかシチュエーションと食べ物のアンバランスさが僕にはおかしかった。
この先はもう6時間近くかけて港に戻るだけだ。朝からビールを飲む。そしてベッドに潜り込んで朝寝だ。
しばらく寝た後、目が覚めたらスマホに着信音があり電波が届くエリアに来たことを知る。
同時に、何人かの人から自身は大丈夫でしたか?というメッセージがあり初めてここで地震があったことを知ったのだ。
船は屋久島と開聞岳の中間くらいのところを走っていた。
僕は外に出て海風にあたりながら、地震があったからあまり釣れなかったのかあ、とぼんやりと他人事のように考えていた。
やがて開聞岳が目の前に迫って来ると船は湾内に入り海面の波もなくなって気持ちの良いクルーズになった。
港に着くと潮はちょうど引いている時間で鉛のジグが沢山入った荷物を港にあげるのに汗をかいた。
日差しは夏の日差しだった。
一同上着を脱いで汗をかきながらせっせと帰り支度をする。
そこに手伝いに来ていた年配の方がY店長と懐かしげに話しをしていた。その方は工藤さんといい、このマリンチャレンジャー号を最初に始めたキャプテンで、さらに遡ると20年以上前には奄美でワールドマリンという釣りガイド会社を設立した人らしい。
Y店長とはその頃からの知り合いでとても久しぶりに、しかも予期せぬ出会いだったので二人の会話は弾んでいた。
荷物を整理が終わり少し時間があったので珍しく集合写真を撮った。
船酔いから解放されたバイク大好きさんはすっかり元気になっていた。
みんな釣果はそれほど芳しくなかったけれどニコニコ楽しそうだった。
三日間の船の上での生活は終わった。
夕方の飛行機で東京に戻ればまたコロナとの闘いの憂鬱な日々の中に埋もれなければならない。
たったの三日間ではあったがコロナから離れ、電波が入らないおかげで世の中の全てのしがらみから解放された時間を過ごせたのはとても快適だった。
釣りのガイドだけではなく、常に我々の安全に気を使い、食事の提供をしと文字通り寝る時間も惜しんで働いてくれた船長に大きな感謝をしたい。
また来年来ます。と固い握手をして船長と別れ車に乗り込み空港に向かった。
また来年来ます。と固い握手をして船長と別れ車に乗り込み空港に向かった。
写真協力:Ebb&Flow
釣りに関するお問い合わせはルアーショップEbb&Flowへどうぞ
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