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2024年3月 8日 (金)

渡部貞夫クァルテット@鎌倉芸術館

渡部貞夫さんのコンサートに行ってきました。

楽しかったです。

おしまい。

 

という感じの感想になるかなあ、と行く前は思っていたのであります。

何故なら貞夫さんの最新作であるサントリーホールのライブを聞いたら古いバップ時代の名曲集みたいになっていて、演奏こそ円熟しているものの新しい驚きなどはないんだろうなあ、と勝手に思い込んでいたのですね。

 

今回貞夫さんのコンサートに行くことになったのもたまたま我が家で生活用品を購入している生協のカタログでチケットを売っていたのを見て行くのを決めた、という安易なもので、御歳91歳という高歴の貞夫さんの見納めかなあ、などというふとどきな発想もあり(貞夫さんごめんなさい)その程度の関心で行くことを決めたんですよ。

 

コンサート当日、会場の鎌倉芸術館は大船駅から徒歩圏内の場所にある新しい施設で初めて行きました。

会場に入るとすでに集まって開場待ちをしているお客さんは僕と同世代近辺の年寄りばかりで予想通りの展開。

ホールは小ホールで400人くらいのキャパかな、僕の席は後ろから6列くらいのど真ん中、ステージまでは遠いけれどいい角度だったし、小ホールなのでそれほど距離もなくジャズのコンサートとしては程よいサイズの会場でした。

 

開演を待ちながらステージ中央にセットされたピアノ、ベース、ドラムセットを見ながら貞夫さんを見るのは久しぶりだなあ、と振り返ってみた。

僕が貞夫さんをみたのは18歳の時、今から半世紀近く前のことで場所は池袋の西武デパートの屋上でのフリーコンサートだった。

日野照正さんのグループとのカップリングライブで二、三局しかやらなかったかな。

実はこれが僕のジャズの生ライブ初体験でありまして、それまでラジオやレコードでしか聴いたことのないジャズを生で初めて観たのであります。

ビールとジャズは生に限る!という言葉がある通り、その時の体験は衝撃的で何しろ貞夫さんも日野皓正さんも当時の日本のジャズの最先端をゆくトップグループだったのですごい演奏をしていた。日野さんは確かニューヨークに行く直前のライブでしたね。

 

そんな衝撃的な貞夫さんとの出会いの次に観たのは大学の学祭に貞夫さんのグループを呼びその時はコンサートの裏方にも入っていた僕はすごくいい席で貞夫さんを観ることができた。

当時は確かフュージョンに行く直前の演奏スタイルをしていたように思う。

コンサート後は当時の渡辺貞夫クァルテットのピアノをつとめていた本田竹広さんが僕らの出店していたジャズクラブへ遊びに来てくれて、良同士セッションをしたのを覚えている。

 

問題はそこから半世紀弱の間だ。

カリフォルニア・シャワーというフュージョンアルバムを出してからの貞夫さん音楽スタイルに僕が興味を失ってしまって以来全く観に行こうという気持ちも起こらず今まで来てしまった。

映像の仕事をしている頃に何処かでお会いしたような気もするのだけれど、ライブを見た記憶は湧いてこないからおそらく大学生時代以来の渡辺貞夫クァルテットを見ることになったのでありますね。

 

そんな風におよそ半世紀の時の流れを振り返りながら待っているとやがて開演のアナウンスがあり客電が落とされステージに貞夫さんがメンバーを引き連れて現れた。

少し猫背になってひとまわり小さくなったように感じたけれど元気にスタスタと歩いてステージに現れたその姿は91歳のおじいちゃんには見えなかった。

小さくなったと感じたのも他のメンバー、特にベースのヒトが大きかったのでそう感じたに過ぎなかった。

 

ステージ中央まで来ることもなくおもむろにソロでサックスを吹き始めた貞夫さん。

8小節吹いたところからバックのピアノトリオが入る。

曲はホレスシルバーのpeaceだった。

 

どうせビバップの曲から始まるんだろうくらいに考えていた僕は驚いた。60年代後半のバップから次の時代へ移る時期の作曲者ホレス・シルバーにとっても新しいスタイルを模索していた時期の曲だったからだ。

 

貞夫さんのサックスは想像以上に朗々と鳴り曲を歌い上げる。音色も美しい。

演奏が終わると曲紹介のMCをご自身でされて「ウクライナの戦争が始まってからは必ずこの曲から始めています」と言っていた。

貞夫さんの平和を願う気持ちのにじみ出た素晴らしい演奏だった。

 

二曲目は50年代の曲ローラ(laura)

美しいバラード曲をミディアムハイの軽快なテンポで演奏する。

アドリブの貞夫節は健在で長いブレスも難なくこなし全く年齢を感じさせない。

目を閉じて聴くとそこに91歳のおじいちゃんの姿は現れなかった。

 

三曲目以降は曲は古目の曲だったけれど、比較的マイナーな曲を新しいアレンジで演奏が続く。

 

バックのピアノ、ベース、ドラムも素晴らしかった。

いずれも貞夫さんから見たら子供くらいの年齢の若いメンバーでピアノは小野塚晃、長身のベースは須川崇司、ドラムスは竹村一哲というメンバーで不勉強な僕は初めて観るミュージシャン達だったが演奏の腕前はさすが貞夫さんのバックをつとめるだけあって超一流、リズムのキレ、コードワーク、音使いなど素晴らしい。

自分のソロを吹き終えた貞夫さんは左手をポケットに突っ込んで舞台袖に歩いていき上着を脱いでから三人の演奏を嬉しそうに見ていた。

親分が弟子達の生き生きとした演奏を目を細めて見ている感じで微笑ましい。

そして自分の出番が近くになると舞台中央に戻ってきて吹き始める。

カッコ良かった。

音色が素晴らしいし音のパワーがやはり年齢を感じさせない。指も動きまくっている。

その姿を見ていたらシロートではあるけれど同じサックス吹きの僕には「おまえなにやってんだよ!ちゃんと練習しろよ!」と叱られた気分だった。

 

前半で5〜6曲、およそ一時間の演奏だったがいずれも古臭い演奏は全くなく、今の貞夫さんの最新の音楽を聴かせてくれて感動した。

91歳でこの時間をサックスを首にぶら下げてステージに立ちつづけるというだけでも凄いことなのに。

 

一昨年93歳で亡くなった僕の父親の晩年を思うとすごすぎる。

昨年ラジオ番組に出ていた貞夫さんが日常のことを話していたのを覚えているけれど、健康管理と練習にはシビアに取り組んでいるという話だったのもうなずけた。

 

 

15分間の休憩を挟んで後半はブラジルの曲をメインに自己のオリジナル曲を交えて一時間吹き切った。

最後はノリノリの演奏で会場は拍手で合わせるが、観客もジャズファンが占めているようで良くある頭打ちをする人はいなくちょっと感動する。

 

曲間のMCで作曲者達との思い出を短く語る貞夫さんの話も面白かった。チャーリー・マリアーノ、バーデン・パウエル、アントニオ・カルロス・ジョビン、高柳昌行などかつての仲間達は皆すでに天国に行ってしまってるのだが、貞夫さんの話からは良き思い出を語っているようで寂しさや悲しさは感じられなかった。

 

アンコールはビアのとのデュオで美しいバラードを吹いてコンサートは終わる。

曲名はわからなかったが聴いたことのある曲だった。

 

会場から出て駐車場に向かいながら、僕はとても清々しい気持ちでいた。

想像していた以上に若々しい貞夫さんの音楽に励まされていい気分だった。

また一流どころの演奏の素晴らしさを堪能できたことも刺激になった。

 

貞夫さんはこの後も月一ペースで各地を周りコンサートをするらしい。

いつまでも元気にサックスを吹く姿を僕らに見せてください。

 

 

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