中島仁トリオのライブを聴きに行った@横浜エアジン
21世紀に入る頃からか、ネットによる音楽発信や情報交換即時性の発展なども手伝って世界中に様々なスタイルのジャズが沸き起こるように出てきて、ジャズの多様化は今や聴き手個人の能力では把握できないほどに多様に広がり、あれもジャズ、これもジャズともはやカテゴリー分けをすること自体が無意味なのではないかと思うほどに複雑になっていますが、聴き手としてはそんな様々なスタイルのジャズから好みの音楽を掘り起こして行くのも楽しみで、次々と出会う新しい音楽世界に心トキメク今日この頃であります。
そんな現代においては既にクラシカルなジャンル分けになるヨーロピアンスタイルのピアノトリオという言い方になってしまいますが、そんな言葉がちょっと安易ではありますがわかりやすい表現なのかなと思われる音楽を演奏する中島仁トリオというピアノトリオがあります。
このピアノトリオは5年前にCDレビューをしていて、クリアで美しいながらも変幻自在に展開して行くサウンドを聴かせてくれたのですが、最近2枚目のCDを発売し、そのレコ発ライブが横浜馬車道のエアジンで行われるというのでこのチャンスを逃すものかと聴きに行きました。
馬車道のエアジンというライブハウスは横浜のこの地域でも老舗の店で、どうやら今年が55周年らしく半世紀以上やっているライブハウスも文化的に貧しい日本においてはここまでの継続には大変なご苦労があったのではないかと思われるところですが、僕としてももう前回行ったのがいつなのか忘れてしまったくらいの久しぶりの来店でした。
歴史を感じる古い店内には沢山のビデオカメラが据え付けられておりツイキャス配信ができるようにできるようになっていた。
おそらくコロナ禍を乗り切るための施策であったのだろう。
中島仁トリオはベースの中島仁(ヒトシ)、ピアノの望月慎一郎、ドラムの橋本学(マナブ)の三人からなるピアノトリオであります。
このトリオにスウェーデン人のサックス奏者オーべ・オンゲマールソンをゲストに吹き込んだアルバム、ミラー・オブ・ザ・マインドをこの5月に発売したばかりで、彼らのフライヤーの文章からメンバー紹介をしてみよう。
ピアノの望月慎一郎は1980年生まれと書いてあるので40代半ばのミュージシャン。
6歳で作曲を始め13歳の頃には海外でも自作曲を披露したという経歴の中でジャズに出会ってからは独学で研究をしているらしい。
欧洲ジャズに近い演奏スタイルを取り入れ、独自の方法論で作品を送り出す。2017年にピアノトリオによる大作アルバム「Visionary」をリリース。2018年、橋爪亮督(sax)をフロントに迎え「Another Vision」をリリース。2021年、Miroslav Vitous(b)、福島進也(ds)をむかえ「Trio2019」をリリース。
と書いてある。
ドラムの橋本学は1976年生まれ。大学入学後モダンジャズ研究会にてジャズ・フュージョン活動を開始、卒業後プロ活動へ。2001年横浜ジャズプロムナード・コンペティションで参加バンドがグランプリ受賞。2005年よりTrio Zero(伊藤志宏piano、織原良次fretless-bass)を主催、作・編曲を手掛ける。2010年には台湾のジャズフェス、2014年にはスイスでのライブ、2012年にはミュージカル「ラブ・イズ・ミラクル」へ楽曲提供。2016年長野県富士見町に移住後は中部甲信地方発信の活動を開始。様々なユニットに参加しそれぞれのレコーディングにも参加。ジャズのみならずポップス・ラテン・ブラジル・アラブ音楽・古楽・ドラム以外のパーカッションも多用して節操なく活動。2010年Trio Zero 1st album「Energitic Zero」をリリース、などど書いてあります。
このトリオのリーダーでベースの中島仁は15歳でエレクトリックベースを始め大学ジャズ研時代にECM系サウンドに傾倒。大学卒業後は故郷の安曇野に定住し2010年頃からコントラバスにスイッチし音楽活動を再開、ヨーロピアンサウンドに影響を受けた自己リーダーのピアノトリオを主軸に活動を続ける。(中略)2017年からスタートした橋本学氏&望月慎一郎氏とのユニット「kiretto」に多くのインスピレーションを得て2018年どうメンバーによるアルバム「Pioggia」をレコーディングしリリース。隠しレビューで絶賛を得る。2019年、JAPRS(日本音楽スタジオ協会)主催の『日本プロ音楽録音賞』の「クラッシック・ジャズ・フュージョン部門においてどうアルバムにて優秀賞を受賞。
とだいぶはしょってしまったけれどこのように書かれているのであります。
さて、長くなってしまった前置きはこのくらいにしてトリオの演奏の話に進もう。
この日のライブはニューアルバム「mirror of the mind」のプロモーションを兼ねてのライブだったので、演奏曲は一曲を除いて全てそのアルバムからのものでした。
ベースのリズムパターンから始まりそこにピアノとドラムが絡んで行くような曲が多く、所謂バップのようにドラムのカウントで一斉に入るような曲はなく、自然にスーッと始まり心地よく流れてまたスーッと音が空気に溶けて消えて行くような構成の曲が多かった。
そのサウンドはどれも透明感と静謐感の中を静かに三人のサウンドが渦巻きながら透明な流れる川のように清涼感があり美しい。
それは望月のピアノが流れるような美しいメロディーを紡ぎ出しながら左手の和音はドビュッシーあたりの印象派クラッシックに通じるモダンでイマジネオティブなサウンドを加える。ヨーローッパジャズ風と一言で言ってしまうこともできるが、それはバップ的なリズムやフレーズを排除してクラッシックからのアプローチが多くを占めたメロディと和音からくるものなのだろう。
ただ美しく綺麗、というだけのものでは無く聴き手の想像力を掻き立てるような間やメロディ、リズムの絶妙なバランスを感じられた。
橋本のドラムはピアノの流れるメロディとリズムに協調しながらも単純なリズムパターンを叩き同調することなく、音の隙間を埋めるように複雑なリズムと音色のこれもまた聴く側に新たな想像力を与えてくれる。一定のリズムを叩き続けるのでは無く様々なリズムを次々と繰り出しながらも全体は統一されたリズムペースに繰り出すものでさらにそこにスティックの持ち替えや素手での演奏など音色もカラフルで、音世界がどんどん広がっていくのだ。
そのドラムスタイルは僕にはミルフォード・グレイブスのトーキングドラムを想起させてくれた。ヨーロッパ系のピアノトリオのドラムスに多いスタイルなのだろうが彼のサウンドの根にあるのはどこか土着的な日本的な語り口をヨーロッパ的に表現しているようにも感じて面白かった。
リーダー中島のベースは自由に広がるピアノとドラムの背後で全体のサウンドをしっかり一つにまとめるような安定たリズムをキープしながら音の流れを導くように流れながらも、時には強く、時には優しくとトリオのサウンドに強弱を与える。その演奏スタイルは誠実な彼の性格をそのまま表したような正確で無駄のないものでありました。
三人の絡み合うように作り出す音を聴いていると聞き手の僕の中に自分なりの新たな想像が頭の中に浮かび上がりイマジネーションを刺激してくれ音世界が頭の中にどんどん広がってゆき心地よい。どこまでも透明感があり美しいのだが全体の音の流れは静かにうねる様に様々に形を変えて流れてゆく、まるで透明な川の流れが常に変化しながら大きくなったり小さく渦を巻いたりて流れてゆく様で、それらは見ているだけで飽きない能登同様に、音の変化に心地よく乗りながらも次の変化を期待して聴いていて起きることのないものだった。
多くの曲はいくつかのスケールとリズムパターンで組み立てられたちょっと複雑なモードの様なスタイルで、バップ的な「はいテーマです、ここからはアドリブ、バースがあってエンディング、」という様なはっきりした構成でそれぞれのミュージシャンの技を聴くというのとはちょっと違って、もちろんテーマ、アドリブ、テーマと流れていく構成は同じなのだが、そのつなぎ目がとてもシームレスな感じでテーマとアドリブ全体のサウンドを浴びて楽しむと言ったらいいのだろうか、そんな感覚でトリオの演奏を楽しんだ。
日本人のピアノトリオでこのタイプの音を聴くのは僕は初めてだったのでとても新鮮に感じた。
音楽をカテゴリーで分けるのは、最早多様化の進んだジャズ、いや音楽全体が多様化してシームレスになっている現代ではあまり意味のないことだと僕は考えるので彼らのサウンドをヨーロッパスタイルのピアノトリオとくくってしまうのには抵抗がある。
彼らのサウンドも一聴するとヨーロッパ的な音楽言語を使いながらも彼ら個々の出す音は日本という土壌から染み出す様なエッセンスを感じられそれが他のピアノトリオとは違う中島仁トリオのサウンドの個性になっているのではないかと感じる演奏でした。まあ、ジャズってそういうものか。
一部と二部に分かれてほぼアルバムからの曲全てを演奏し、さらにアンコールも一曲演奏してこの日の演奏は終わった。
今回はアルバム参加のサックスのオーべ・オンゲマールソンが怪我で参加できなかったのはとても残念で、帰りがけにアルバムを買って彼の入った演奏を家で楽しむことにしてた。
ライブハウスから外に出ると初夏の夜風が清々しく感じられた。
追記 この日の演奏はエアジンのツイキャスライブで見ることができるようです。
興味を持たれた方は是非¥横浜エアジン¥ツイキャスで検索してみてください。
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コメント
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素晴らしい文章だなぁ。あっという間に読んでしまった。聴いたことのないプレイヤーなのに、臨場感あふれる文章の端々から音が聴こえてきそうに感じた。ライナーノーツを書く才能があるね。
投稿: KIKUyan | 2024年5月20日 (月) 11時45分