二泊三日の濃〜い遠征から戻り、現実に引き戻されてそのギャップからカタルシスに浸りながらも、そんな悠長なことを言っている暇はない。
なぜなら、今回は一生に一度つれるか釣れないか=一生に一度食べられるか食べられないか、というクエというお魚がいるからです。
日曜日の夕方佐賀県は呼子港そばの売店からクール宅急便で発送したクエちゃん。
月曜の朝に「荷物追跡」をPCでしてみたら、「その伝票番号は登録されていません」的な表示が出てきたので大慌て。
営業所の開きそうな時間を見計らって電話をすると「調べて折り返し電話します」とのこと。
およそ一時間、そわそわしながらブログなど書いて待っていると地元営業所のおばちゃんらしき声の電話があり、「荷物は今朝受け付けました。予定通りの日にちに必ずお届けします」との声に動揺していた心がやっと静まった。こういう時は声の主のおばちゃんがとてもいい人に思えてくるから不思議である。
というような事があって、翌日火曜日の昼過ぎ、無事にクエちゃんは家に届いた。
今回このクエちゃんを食べるに当たっては慎重かつ冷静にその食べ方の作戦を練っていたのであります。
その作戦一は、以前キジハタを持ち込んで超絶品清蒸を調理してくれた近所の中華料理店「華珍楼」さんに持ち込んで高級中華料理三昧をする。というもの。
作戦二は、ここはシンプルにクエの食べ方としては最もおいしいとされるクエ鍋を、ご近所のお宅に親しい仲間を呼んでクエ鍋パーティをするというもの。
結果はすでにフェイスブックにアップしているのでご存知の方も多いかと思われますが、鍋で行く事になりました。
華珍楼さんに持ち込んで見ていただいたら、大きすぎて料理に時間がかかりすぎるのでたのお客さんの料理ができなくなり、営業に支障をきたす、というのがそうなった大きな理由なのですが、私の心はシンプルな鍋で本道を行くか、それとも超絶品中華を堪能するかで大きく揺れ動いていたのを、華珍楼さんのこの一言がふんぎりをつけてくれた。
さあ、鍋にすると決まったら仕込みはすべて自分お手で行うので、早速ネットでレシピなどを検索。
ところが、クエという魚があまりにも高級すぎて一般の方が調理する機会も少ないらしく調理例がとても少ない。というよりほとんどないに等しい。
いつもお世話になってるクックパッドに一例と他のサイトに一例のみ。
それも魚のさばき方から各部位の処理まで細かく書かれているものはないので、双方のサイトと写真など見ながら想像力も働かせてさばきました。
これまでさばいた大型青物との決定的な違いは皮と骨の硬さ。
実はこのあたりがクエの美味しさの素らしく、骨から出るコクと皮と身の間のプルプルが実においしいらしいという事も分かってきました。
小一時間で以外とあっさりとさばき切り用意は万端。
メンバーの集まる夕方を待ちます。
会場をお貸ししていただいた、ご近所のお友達Kさん宅に早めに乗り込んで、まずはカンパチの刺身をお皿に盛り付け、これを食べていただく間に鍋を仕上げていこうという作戦です。
メンバーの皆さんは一様に時間より早めに到着。
全員がクエを食べた事などないクエ鍋処女であります。
中には私が電話で「クエ」という名前を出しても「なんなのそれ?」みたいな方もいらしたがその後予習をなさったようで、集合時にはクエ鍋を食べられる事の貴重さにテンションは上がっていらした。
鍋用に盛り付けた切り身とネギと一諸にクエの頭を添えて盛り付けて見栄えを演出したところ、一番に到着した画伯がクエの迫力に感動したらしくやおらバッグから水彩絵の具一式を取り出して絵を描き始めた。
画伯がいい子に絵を描いている間、一同はカンパチの刺身で乾杯。
こちらも日頃スーパーで売っているものなどとは比べ物にならない美味しさなので、すでに美味しい!という言葉が飛び交う。
そんな中、前日から水でお出汁をとっておいたスープを沸騰させて、湯通しした内臓類を鍋に入れて煮込む。

野菜類はネギだけで行くのが一番うまい!とサンライズの田代船長及び根魚王のグルメ二人からアドバイスを受けていたのでその通りにシンプルに行きます。
豆腐類、キノコ類なども一切入れず、クエと長ネギだけのシンプルお鍋。
出てきたアクを丁寧にすくい取り、肝に続いてヒレなどのアラも投入。
これだけで鍋が溢れそうになったので、まずはこれをポン酢でいただこうということにしました。
この鍋のためにポン酢も一本700円する高級品を使用。
せっかくのクエをポン酢で汚したくはなかった。
カンパチのお刺身がなくなり、画伯の絵も完成したところでお鍋パーティの開始です。
さあて、円卓の中心に鍋が運ばれると一同の目はそこに釘付け。
最初の一箸は釣られたご本人が、ということで物をつまんでポン酢につけて口の中に放り込む。
噛んでみるとプルプルの歯ざわりとともに濃厚なお汁旨味が口いっぱいに広がり、口の中をとろりと一周駆け巡った後、ちらりと上品なコクを残して喉の奥に消えてゆく。
何という快楽。
これまでに味わったことのない新たな快楽を体験してしまった罪悪感のようなものすら覚える。

私に続き鍋に箸を進めた一同もそれぞれに恍惚とした表情を浮かべていらっしゃる。
少し間を置いてから、「美味しい」「うまい」「絶品」などの声が次々と飛び出し感動を共有する。
うまい鍋にはうまい酒、画伯ともう一名の持ち込まれた日本酒二本がそれぞれの個性で鍋の旨味を引き立ててくれ、酒もどんどん進んでしまう。
内臓はエラも含めて全て湯通しして投入をしたが、臭みなどは全く感じす実にまろやかで上品な味を満喫させてくれました。
鍋に隙間ができたので今度は中央に頭を入れてその周囲に贅沢に分厚く切った切り身を投入。
この身の部分、華珍楼のシェフからはなるべく薄く切って!とアドバイスされたにもかかわらず、分厚い身の歯ごたえを味わいたい欲望に勝てずあえて分厚く切っちゃいました。
あまり火を通しすぎると上手くないというのでさらっと火が通ったくらいで食べてみると、想像通りふっくらとした身のモチモチの歯ごたえ。旨味は内臓ほどないものの、これまたあっさり目上品な白身の旨味が歯茎にまでしみてくる。

先ほどのモツ類がボンド・ガールのようなブリブリのグラマーの超絶美人だとしたら、こちらは和服の似合うしっとりとした日本的超美人というところか。
同じ魚の中で全く異なる味わいを堪能し、頭の周りに残されたボンド・ガールも一通りやっつけたら、いよいよ本日のメイン・イベント!雑炊であります。
これまで美味しいと食べていた鍋の具などというものは、所詮この雑炊の出しをとった後のカスのようなものであり、クエという魚の全ての旨味・だしを凝縮したのが雑炊なのであります。
ご飯を投入し簡単に味付けしたら少々蓋をして吹きこぼれないように様子を見ながら待つのですが、待ちきれない酔っ払い達はあれこれとうるさいことを言う。
そのような戯言下ネタは全て無視して雑炊の仕上がりに全神経を集中し、最後に溶き卵を入れて半熟に固まれば雑炊の完成。
一同、生涯最初で最後のクエ鍋の雑炊となるのではないかと写真を撮りまくります。
たかが雑炊にこれだけ熱い想いをぶつける集団もなかなかいないのではないかというほどのカメラを構えた一同の放列をみて思わずその写真を撮っちゃいましたよ。
しかし、人を情熱的にするだけの味がこの雑炊にはあった。
まずは、ここはひとつ最年長者からと、この会のメンバーの縁を取り持ってく下さったご婦人によそって感想を聞く。
確信的な「おいしい」という一言をいただき全員に配膳し食べ始めると、全員が押し黙ってしまい一瞬先ほどまでの宴が嘘のように静まりかえった。
次の瞬間「うまい」「おいしい」「すごい」「すばらしい」など賛辞の連発。
濃厚で上品なコクと旨味、食べた後に口の中に残り続ける独特のふくよかな味わい。
これまで様々なおいしい雑炊を食べてきたけれどもこれだけ強烈な印象の旨さはなかった。
それまで遠慮がちに鍋をつついていた一同、遠慮という言葉を忘れるほどの勢いで雑炊をペロリと鍋いっぱい綺麗に食べきってしまった。
一同の表情には恍惚ともため息ともつかぬものが漂い、不思議な余韻を作り出していました。
珍しく妙に味わいながら雑炊を食していた画伯がお代わりをしようとした時には時すでに遅し。鍋の中には米粒ひとつ残っておらず、人生最初にして最後になりそうなクエ鍋は終了したのでした。
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